横につなげると長くなる。

弱音の掃き溜めです。ようこそ。

トラウマが発生するプロセスを知っていますか。

 

トラウマってのは誰にでもあるわけです。トラウマがないとかいう人は、犬も食わないつまらない人生を送ってきたか、トラウマを黄色いシマウマかなんかと勘違いしてるのだろう。

 

僕のトラウマはM.C.ハマーの『U Can't Touch This』。正確に言うとリック・ジェームスの『Super Freak』。まあどっちでもいいんだけど。僕のトラウマはMCハマーの横歩きでも、肩パットでもなくて、あの音楽にあるのだから。

でーでででっ ででっ ででっ(けんたっちでぃす)

である。

なんでこれがトラウマかというと、水木しげるのせいだ。そうだ。水木しげるのせい。


僕は小学生の頃、あるビデオを観た。近所にAVクラブがあった。現在のTSUTAYA AVクラブである。麻美ゆまにお世話になった経験を経ると、AVクラブという響きにまた違った意味を見出すことができるが、それは中学生以降の話で、小学生の頃の僕には“AVクラブ”はレンタルビデオショップでしかなかった。それ以上でもそれ以下でもない。

当時、同級生のKくんに「AVクラブ行ったことある?」と聞いたら、「そんな大人なところにはまだ…」と口を濁されたが、彼はたしかにチン毛が生えるのが早かった。修学旅行の浴場で、彼のあそこを世界遺産を見る目で拝んだものだ。


閑話休題。週末になると父親に連れられてビデオを借りに行った。親父は洋画とホラー。僕ら兄弟は子供向けビデオの棚。特撮やらアニメやらを借り続けていたが、毎週のように通えば飽きてくるのは当然で、新たな分野を開拓しようとする僕がいた。

そこで見つけたのが水木しげるの妖怪図鑑的なビデオ。タイトルは覚えていない。当時、妖怪に興味があった僕は迷わず借りた。たしかシリーズもので、とりあえず1巻だけ。


家に帰って兄弟とビデオを観る。
内容は妖怪の紹介を1時間くらいただ流し続けるというやつで、youtubeでよくある静止画と音声(もしくはテキスト)という手抜き動画の走りみたいなものだった。

水木しげるの絵と無駄にいい声の声優さんによる妖怪の紹介。キジムナーやらおとろしやら、メジャーどころからマイナー妖怪まで網羅している。なかなかどうして面白くて引き込まれた。問題は本編ではなく、ビデオの最後にあった。

ビデオの終わりに2巻の紹介ムービーがあった。そこで流れていたのが、リック・ジェームスの『Super Freak』である。なぜ妖怪のビデオにこの音楽を合わせたのかわからない。時代だろうか。幼心にこのミスマッチ感がクセになる。でーでででっ ででっ ででっ(妖怪の絵、ばーん)。でーでででっ ででっ ででっ(妖怪の絵、ばーん)。繰り返し。単調な繰り返しに退屈しだした頃、


でーでででっ ででっ ででっ

のあとに“口裂け女”ばーーん。

こいつが怖かった。水木しげるの画力よ。大トリを飾った“自称美人”の妖怪女の絵は、じわりじわりとアップになる。こわい。そしてぴたりとズームが止まったと思ったら、


ひゃーひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……


と高笑いが響く。さっきまでいい声のおじさん声優のボイスしか入ってなかったのに、気が狂ったメンヘラ女の声みたいなナイスボイスがご丁寧に収録されている。


こいつのせいである。私がリック・ジェームスの『Super Freak』にトラウマを覚えるようになったのは。


これのせいで僕の中ではMCハマーも妖怪にカテゴライズされるようになった。これを作ったビデオの会社はMCハマーに謝罪するべきだと思います。

 

でーでででっ ででっ ででっ(おわり)