横につなげると長くなる。

弱音の掃き溜めです。ようこそ。

好きな長編の話。(『卵をめぐる祖父の戦争』について)

僕は長編を書くのが苦手である。

 

堪え性がないこと、キャラ造形に興味がないことが大きな理由かと思う。物語の巧みな構造や構成、ワンアイデアから発想を膨らませた話が書くのも読むのも好きなので、あんまり長編は書く気が起きません。読むのは嫌いじゃないですが、読書体力の低下と読む時間がないのが、原因で最近は短編ばかり読んでます。

それでも好きな長編はいくつかあって、1番好きな長編小説はデイビッド・ベニオフの『卵をめぐる祖父の戦争』です。ベニオフはアメリカの作家で脚本家もやってる、というか脚本家が主な仕事みたいです。

 

この『卵を〜』は原題が“City of Thieves”っていって、訳すと盗人たちの街とかそんな意味なんですけど、これに関しては邦題の方が優れてる。映画なんかは邦題がダサかったり、全く違ったりしますけど、これは素晴らしい。

まず『卵をめぐる戦争』ってなんだ?と思いますよね。卵が何かの比喩なのかなと思うじゃないですか。ところが、たまごはあの卵です。鶏が生むオムレツやら目玉焼きなんか作るあれです。あらすじは、

 

 

作家のデイヴィッドはネタに困って、祖父のレフを取材することにします。本編は祖父であるレフが17歳の頃に体験した話が主なストーリーです。第二次大戦中、ナチスに包囲されたロシアのレニングラードで暮らしていたレフは、死んだ敵兵からものを盗んだことで、軍に捕らえられてしまいます。死刑を覚悟しますが、大佐に呼び出されたレフはある任務を言い渡されます。彼は饒舌な青年兵コーリャを相棒に任務を始めることになるが……。

 

 

という、話です。この任務というのが、ちょっとしたネタバレになるんで、あんまり言いたくないんですけど、「卵探し」です。1ダースか2ダースだったか忘れましたが、卵を見つけて大事に持って帰ってこいと。

戦時中でみな飢餓に陥ってますし、卵なんてないわけです。みんな人間が食うようなものじゃないものを食べて、飢えを凌いでいるわけです。そんな中、どこに卵があるのかと。なんで卵なんだ?とみなさん思われると思いますが、それはぜひ読んでほしいです。

冒頭で理由は明かされますし、ネットのあらすじなんかではしっかり理由まで書いてありますが、これが面白いというか腹立つんですよね。「みんな戦争で大変なのに!!!!」という。

本編は若い2人の青年が、戦争の悲惨さを目の当たりにしながら、自分たちも死ぬほど過酷な状況下で卵を探すだけなんですけど、これが面白い。ほんとに悲惨で目を覆いたくなるような状況が描写されるんですけど、主人公とその相棒のやりとりが面白い。

ベニオフの短編に「悪魔がオレホヴォにやってくる」って作品があるんですが、これも戦時中のロシアが舞台で主人公が少年兵士という短編なんですが、これも悲惨な状況下にありながら、どこかユーモラスな感じを受けるんです。辛い状況から逃避するために、わざとユーモラスに振舞ってるのか、もはや感覚がおかしくなってるのか、はたまたそうしないと耐えられないからなのかわかりませんが、そのユーモアがまた現状の悲惨さを際立たせるのです。

こういうダークな雰囲気が漂う舞台設定でありながら、登場人物にユーモアが感じられるようにセリフ、ほとんどブラックジョークなんですけど、を話させるという感じが、僕がベニオフが好きな理由です。

 

同じような作風、まあ僕が勝手に同じようだと思ってるだけなんですけど、アーナルデュル・インドリダソンっていうアイスランドのミステリ作家がいます。彼の作品も暗い雰囲気でありながら、結構ブラックなジョークや会話が多くて、面白いんですよね。小説とは関係ないんですけど、アーナルデュル・インドリダソンって名前、これ面白くて(アーナルデュルの方じゃないよ)、インドリダソンは苗字じゃないんです。

アイスランドってみんな苗字がないらしい。というのも小さい国だから苗字が必要ない。インドリダソンはインドリダさんとこの息子さんという意味だそう。作品も狭くて人口の少ないアイスランドの閉鎖的な風土と暗い雰囲気が出ててよい。

 

ただこの作家に限らず最近の欧米のミステリは子供の頃虐待、しかも性的虐待受けててーっていう展開が多くて、読むのつらくなる。だから精神的に調子が良いときじゃないと読めない。『その女アレックス』のピエール・ルメトールとかもそうですけど。

 

まあこの辺の殺人の動機とかについては色々思うところがあるんですが、これはそのうち。