横につなげると長くなる。

弱音の掃き溜めです。ようこそ。

ある定食屋の午後。

少し前に定食屋に行ったんですけど、その定食屋ってのが、通ってた高校の近くにあります。なぜか高校生の頃は一度も行ったことはなく、たまたま近くに行く用があったもんで、ひとり昼飯を食いに。なんか隣の空き地が工事中だったんですが、「遺跡発掘中」ってなことが書いてあって。そこそこ街中なのに、土器とかなんやら出てきたらしい。ちゃんと基礎工事したんか。

 

話は戻って定食屋のこと。昔ながらの定食屋って感じで、手書きのメニューが壁に貼ってあっり、もれなく日に焼けて色が変わってる。世にも奇妙な物語の『ハイ・ヌーン』に出てきた定食屋をご想像いただきたい。奥に優しそうなおばあちゃんが座ってて、目を細めて「いらっしゃいませ」と言った。

席について、待ってると40代くらいの綺麗な女性の人がメニューを聞きにきた。白いエプロンが眩しい。僕は「唐揚げ定食」を頼んだ。しばらくテレビに映った坂上忍を眺めていると、大学生3人がやってきた。

なかなかの“イケテナさ”である。揃いも揃ってチェックのシャツ。まあ俺も人のこと言えるような容姿ではないが。

 

「決まった?」

「…まだ!」

「おせえよwww」

 

美人の女将さんが注文を取りに来た。彼らが頼んだメニューは以下の通り。

 

『鯖味噌定食、豚キムチ定食、親子丼』

 

 

ここで話は変わる。短縮語というものがある。携帯電話を“携帯”、スマートフォンを“スマホ”、エッグチーズバーガーを“エグチ”というように、日本人は言葉を縮めたがる。一般に浸透した短縮語以外にも、あるクラスタにだけ通じる略語や、その店で働く店員にだけ通じるものもある。

 

閑話休題。美魔女女将さんが奥の厨房にオーダーをかける。もう一度言う。大学生どもの注文は『鯖味噌定食、豚キムチ定食、親子丼』である。

 

「鯖と豚、親子です」

 

となりの大学生が「親子ちゃうやんけ!」と言った。

 

あまりに大学生のツッコミが早かったものだから、僕は笑ってしまった。そして想像する。鯖と豚の親子。“卵が先か鶏が先か”というが、果たして“鯖が先か豚が先か”。

鯖が先だと仮定しよう。大海原で無数の卵から生まれた豚。豚の群れが群青の海中を泳ぐ。なんとも滑稽な光景。

豚が先ならどうだ。畜産学校のドキュメンタリー。学生たちが出産間近の豚を心配そうに見守る。横たわったお母さん豚が吠える。豚の胎から勢いよく銀色の何かが飛び出す。藁の上で跳ねる鯖。泣きわめく学生。

どっちもダメじゃ。

 

そんなこと考えていると唐揚げ定食がきた。うまいかった。食べ終わった頃、女子高生がひとり入ってきた。今日は土曜だった。課外帰りだろうか。すたすたとカウンターのとこまで歩いてゆく。美魔女女将さんが笑顔で迎えた。

女子高生はカウンターの席に着くと「水ちょうだい」と言った。女将さんはグラスを差し出しながら聴く。

 

「学校どうだった?」

「まあまあ」

「今日はもう出掛けんの?」

「遊び行くー」

「そう。いってらっしゃい」

 

微笑ましい光景である。女子高生は颯爽と定食屋を出て言った。おばあちゃんと女将さんが笑顔で送る。とても古い店だけど、ずっと残っていてほしい。いずれあの娘が跡を継ぐのだろうか。3代目。雰囲気いいお店だ。また来ようと思う。僕はご馳走さまをしてカウンターへ向かった。

 

「さっきの子、娘さんですか?」

 

僕は1000円札を手渡した。美魔女が笑う。

 

「いや、近所の子です。娘じゃないです」

 

 

 

 

 

親子ちゃうんかい!!!!!!!