横につなげると長くなる。

弱音の掃き溜めです。ようこそ。

僕の人生にはバグが起こらない。

シミュレーション仮説とかそういうむつかしい前提を置くまでもなく、僕の人生においてバグが起こらないのはおかしい。

 

あまりにこの世界は良くできている。子供の頃は誰もが“自分は特別”だと思っていたし、ベルタースオリジナルの爺さんもそう言ってくれたから、疑うこともなくスクスクと育っていたのだが、最近そうではないらしいと気づいた。

気づくのが遅すぎたと思う。何も考えず大人になってしまった。多分、僕の人生について他人に話せば、「それなりに順調やん」と言われると思う。自分で言うのもなんだが。

 

途中、足踏みしたり、迷走したりはあったが、結果としては“まあまあ”の大人になれた。でも何も考えていなかった。何も考えず、目の前に出現したイベントをなんとなくこなしていると不思議とうまくいって、ここまで来た。

これ自体がバグなのだ、と言われたら悲しいとこがある。攻略の正規ルートと裏面があったとして、やっぱりゲームなら裏面を楽しみたいと思うのだけれど、うまくいくのは正規ルートだけで、裏面は発生条件をクリアしたつもりなのに発生しない。博打うって仕事辞めたり、(大して多くもない)関係性を全てカットして再スタートしたりする勇気もない。

 

だから、“バグが起きること”だけ祈りながら、生きている。モグラ女子が僕にベタ惚れするとか、宝くじの1等が当たるとか、庭に異次元に通じる穴が開くとか。

でもバグっていうと大抵厄介なもので、自分にとって都合の良いバグなんてそうそうない。もし僕の人生にバグが起きたとして、不治の難病にかかったり、乗ってた飛行機が墜落したり、宇宙人に殺されたり、とかそんなもんだろう。

 

これがゲームなら攻略サイトにバグの起こし方とかが載っていて、運営会社が対応する前に都合のよいバグだけチョイスして起こせばいいんだろうけど、どうも僕の人生の運営会社の所在地や連絡先は分かりそうもなく、やり込んだゲーマーもいないようなのでむつかしい。

 

 

星野源が好きな友達がいた。その友達と外を歩いていると『恋』が流れていた。僕は「恋ダンス」を踊る輩を心底嫌っていたし、あれだけ好きだったガッキーにも見切りをつけた。

マルチな才能に嫉妬した僕は「確かに作詞・作曲はすごいけど、結局音楽って編曲次第だよね」と音楽的素養皆無のくせして言った。

友達は勝ち誇ったように、黄色いタワレコの袋を持った右手で僕を指差した。

 

星野源、編曲もしてるから」

 

僕は墓穴を掘った。

 

現代日本において、墓穴を掘るという行為に携わることは皆無と言ってよい。日本は火葬したのち、石の墓に納骨するのが一般的で、遺体を穴掘って埋めるとこはほとんどない。だからゾンビの心配もなく、“平和ボケ”していると外国人から揶揄される。

「墓穴を掘る」と言うが、現代日本においては「墓石をフルスクラッチする」だとか、「骨壷に我が名を刻む」とか、「火葬場を予約する」とかの方がしっくり来る気もするが、慣用句とはそういうものである。

 

とにかく僕は墓穴を掘った。

 

ああ。なるほど。バグというのは途中で発生するのではなくて、生まれた時に発生しているのだ。星野源には先天的にバグが起きている。だから、マルチな才能を持っているのであって、僕に今からバグが起こったとして、俳優になれるわけでも、ミュージシャンになれるわけでも、文筆業に携われるわけでもない。

(もちろん本気で星野源が先天的なバグで成功したとは思っていない。そもそもの才能に加え、血も滲む努力を経ての成功だとわかっている。哀れな成人男性の僻みである)

 

しかし、そうであるならば、僕は生まれながらにしてバグが起こりえない「優秀な個体」であるのではないか。

 

そうだ。僕は完璧にプログラミングされた個体なのだ。だからバグも起こらないし、一般的なごくごく普通の人生を歩んでいるのだ。

 

 

そう思わなければ精神を保てないゴールデンウィーク後半である。